剣道部のフジタくんだ!
真夏の真昼のお話です。
買物帰り、コンクリートがギラギラ輝く道を、自転車で走っていたのですが、
見通しの良い四辻で、急に前の自転車が止まり、その人の横顔が目に入りました。
「あれっ、剣道部の、フジタくんだ」
あの自転車、あの乗り方、あの白シャツの着方、あのディパック、あの横顔、
私は鮮明に覚えていました。
毎日、彼を追い越し、追い越されながら、少し離れた高校に通っていたことを。
「フジタくん、久しぶり」と声をかけようとした瞬間、
私は我に返りました。
高校時代の年齢をとっくに2倍以上も経てしまい、
フジタくんは、もう若者であるはずがありません。
私だって、2児の母。りっぱな「おばちゃん」です。
決して、高校生には戻れません。
懐かしい思い出の中にも、入れません。
でも、勘違いがきっかけで、私は、一瞬だけ、高校生になれたのです。
それはそれは、楽しい気分になりました。
時間は戻らないけれど、
私たちの心の中だけは、過去にも未来にも、自由に飛んで行けるのです。
心って自分次第で限りなく、自由になれるんですね。
円樹(えんじゅ)